2009年12月17日木曜日

サルバドールの朝

『サルバドールの朝』

スペイン内戦時代、フランコ独裁政権に抵抗した若者たち。そしてそれを武力で封じ込める政府、警察。スペイン語以外は禁止されていた。サルバドールも、政府に立ちむかったそんな若者の一人。MILという組織で、「絶対に捕まらない」というグループの理念のもとに銀行から資金を奪い、さまざまは活動を繰り広げた。最初は波に乗って銀行強盗もうまくいき資金も回っていたが、警察にも目をつけられ、だんだん苦しくなる。そしてある日計画が失敗し、サルバドールはもみ合いの最中に警官を銃で殺してしまう。当時の「警官殺し」に対するイメージはとても悪く、彼のもともとの立場もあって、弁護活動はなかなかうまくいかない。担当弁護人は自分のイメージが悪くなることも承知で、全力で彼を弁護。しかし残酷にも死刑執行の命が下る。執行まではあと12時間。その間にフランコや法務大臣に恩赦を取り付けられれば彼の命は、市民の希望は救われる。胸の中の、今にも消えそうなかすかな希望
の火だけを頼りに、なんとか精神状態を保とうとするサルバトール。電話を受けて駆け付けた3人の姉妹。弁護士協会で電話をかけまくるよう指示する担当弁護人。立場上なにも言えないのがもどかしく、サルバトールを見つめる刑務所員。冷酷な顔で彼の墓地の有無を姉妹に尋ねる係員。そして、一人、留守番をさせられた、サルバトールを慕っていた幼い妹。
無情に過ぎる時間。いつもと同じような朝が来る。のに、そこで彼は独裁政権最後の死刑者となる――
その数時間の描写が何よりも重く辛かった。ピストルで人が殺される。死刑で処罰される。人の命の重みは同じ。でも、自分の死、目の前の人、家族、兄弟の死の瞬間を知りながら迎えることがこんなにもやりきれないものなんて。もう二度と生きたこの人の体に触れることはできない、声も聞くことができない。思い出も作れない。死を待つ人は必死に生きようとする。その気持ちを知って、でも自分には命が残されていて、でも何もしてあげられない。命を奪おうとしているのも同じ人間。その流れを止めることはできない。法に従う限り。
そういえばこういうことに直面したことがないんだと思った。すごくショッキングで、涙が止まらなかった。単純に、死について。そしてこのような時代背景や死刑という制度について。言葉にならないけれど、すごく苦しかった。

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